近年,3Dプリンタおよび3Dプリントサービスが急速に普及しており,高い注目を集めています.
本記事では,市販されているマウスの部品を再設計し,部品の3Dプリントを行います.また,出力物の実地的な評価を通して,ユーザーによるカスタム部品の自作の可能性を探ります.
と,ゲーミングデバイス工学とは?的な理論を盛大にブチ上げるのも良いのですが,実態としては私が今使っているG300rのホイールが加水分解を始めたからです.(ちなみにこのマウスは初代から数えて2匹目のG300です.それにあと2匹ストックがあります.)
私の中でG300シリーズの寿命とは,ホイールのゴム部の加水分解が始まりベタベタし始める時です.期間的には約1,2年なので,もう少し寿命を伸ばしたいのですよね.
一昨年にもなにやらラバーコーティングに関するツイートをしているので,私のゴム製ホイールに対する戦いの歴史は長いようです.人はなぜホイールにラバーコーティングするのか— systema (@systema_) 2014, 12月 12
というわけで,ラバーのないマウスのスクロールホイールを作ります.
形状データの作成
形状データの作成にはBlenderを使用しました.また,ノギスを使用して,元の部品の寸法を0.05mm単位で計測します.ワイヤーフレーム |
ソリッド |
裏面(ワイヤーフレーム) |
裏面(ソリッド) |
まずはホイールの外周部のデザインです.元はドーナツ型なのですが樹脂成形だと滑ることが予想されるので,外周部に凹凸をつけました.
さらに,ノッチ数を24/周から16/周に変更しました.変更した理由はスリット部分の成形精度に不安があったためです.
所要時間は採寸に1時間,モデリングに3時間ほどでした.
3Dプリント
出力にはDMM3Dプリントを利用します.一般家庭にはFDM方式のプリンタが普及していますが,今回の場合,FDM方式だとスリット部分が正しく出力できないと推測できるので,業務用の機材で出力したほうが良いと判断しました.形状データはDMMのガイドラインに従ってMiniMagicsで造形サイズと形状のチェックを行います.
一度目は1/10スケールで出稿してしまいエラーが出ましたXD
データをアップロードすると数分後に見積もりが送られてきます.データのチェックの見積もりは自動化されているようです.
見積もり
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石膏フルカラー 919円
アクリル(Ultra Mode) 2,490円
アクリル(Ultra Mode) レッド 2,598円
アクリル(Ultra Mode) ピンク 2,598円
アクリル(Ultra Mode) ブルー 2,598円
アクリル(Ultra Mode) パープル 2,598円
アクリル(Ultra Mode) ブラック 2,598円
アクリル(Ultra Mode) オレンジ 2,598円
アクリル(Ultra Mode) イエロー 2,598円
アクリル(Ultra Mode) グリーン 2,598円
アクリル(Xtreme Mode) 2,764円
ナイロン 1,614円
ナイロン レッド 1,701円
ナイロン ピンク 1,701円
ナイロン ブルー 1,701円
ナイロン パープル 1,701円
ナイロン ブラック 1,701円
ナイロン オレンジ 1,701円
ナイロン イエロー 1,701円
ナイロン グリーン 1,701円
シルバー 鏡面 9,582円
シルバー 未処理 7,962円
シルバー バレル研磨 8,394円
シルバー いぶし仕上げ 10,932円
シルバー 梨地仕上げ 10,932円
シルバー ヘアライン 10,932円
真鍮 鏡面 7,756円
真鍮 K24メッキ 9,106円
真鍮 K18メッキ 8,998円
真鍮 K14メッキ 8,890円
真鍮 ピンクゴールドメッキ 8,782円
真鍮 ロジウムメッキ 8,620円
真鍮 ブラックロジウムメッキ 8,620円
真鍮 ガンメタロジウムメッキ 8,620円
ゴールド 152,320円
プラチナ 242,322円
チタン 6,288円
ホワイトアクリル 1,772円
ゴムライク(ホワイト) 1,955円
ゴムライク(クリア) 1,955円
ABSライク 2,009円
インコネル 104,243円
マルエージング鋼 53,736円
アルミ 44,602円
ジュラルミン 5,024円
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材質はアクリルのUltra Modeでも良いと思いましたが,200円しか違わなかったので確実に成形できそうなアクリルのExtreme Modeにしました.
2.7kという値段を見てすこし迷いましたが,G300の数少ない弱点であるセンサーとホイールのうちの1つを潰すことができると考えると「Go」だと判断しました.
もう少し肉抜きすれば2000円くらいにはなるかもしれません.
余談ですが,もう少し安い素材で「使えそう」なのはABSライクとホワイトアクリルあたりかなと思います.ここらへんはDMMのサイトのデータシートを眺めながら検討していきましょう.
プリント結果
発注から8日後に出力物が到着しました.2重の気泡緩衝材にくるまれたものがダンボールで梱包されています.左が出力物,右がG300r付属のホイールからラバーを剥いだもの |
出力物の拡大写真 |
スリット部分の造形
0.1mm単位の造形精度が必要なのですが,目詰りもなく正確に出力されています.
この感じだと,Ultra Modeでも大丈夫な気がします.
サポート材が付いていた面の透明度を上げた所,透明度が高すぎてスクロールできなくなりましたが,油性マジックでスリット部分を黒く塗りつぶすことで問題なく機能します.
サポート材
サポート材がついた側の面 |
サポート材自体は除去されていますが,サポート材のついた面(白くなっている部分)はざらざらしています.
なめらかに出したい面が上となるように,成形方向は気を使うと良いでしょう.
組み立て
筐体上部から組み込む |
外観 |
クリアランス
クリアランスの検証 |
ノッチ
一点だけ改善点があります.ノッチ部分ですが,設計が浅いのかノッチが弱いです.ノッチ数を変更したのが関係しているのでしょう.とりあえずは今後の課題ということで・・・まとめ
まとめます.- スクロールホイールは自作できる
- 光学式エンコーダーのホイールでも高精度出力すれば対応可能
- 機械式エンコーダーならもっと安い材料でも対応できるのでは?
- アクリル造形は精度が良い
- 寸法通りにデータを作成すれば一発で実用品を出せる
- サポート材
- サポート材が付く面はざらざらになるので造形方向に注意
- コスト
- 安くはないが,本当に良い部品が作れるのなら価値があると思う
というわけで,場は整いましたね.さて―
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